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東京高等裁判所 平成6年(ラ)627号 決定

遺留分減殺請求権《中略》を行使するか否かは専ら遺留分権利者の自由な意思決定に委ねられていると解するのが相当であり、これを行使する相続人の意思が外部的に表示される(受遺者や受贈者に対する遺留分減殺請求の意思表示はもちろん、他人への減殺請求権の譲渡の意思表示も遺留分減殺請求権を行使する意思の表示と見てよい。)前の遺留分減殺請求権は、行使上の一身専属権であると解するのが相当である。したがって、これを差し押えることは許されないというべきである。

また、遺留分減殺請求権は形成権であり、その行使によって遺留分を侵害する行為は侵害の限度で当然に効力を失い目的物は右の限度で直ちに(物権的に)遺留分権利者に帰属することとなると同時に、形成権としての遺留分減殺請求権が消滅することは、抗告人らの指摘するとおりである。

(二) 《中略》

遺留分権利者に対して金銭債権を有する者が、遺留分権利者において遺留分減殺請求権を行使したことにより取得した権利、すなわち、遺留分権利者に帰属することとなった目的物そのもの(例えば不動産(共有持分)、動産、債権等)に対して、他の要件が満たされる限り強制執行を申し立てることによって権利の実現をはかることは当然許されるし、当該目的物の引渡請求権あるいは将来生ずべき価額弁償債権等に対して強制執行を申し立てることもまた、これを妨げる理由はない。

2 本件差押命令の適否

(一) 本件債権差押命令申立書及び原決定書に添付された差押債権目録は《中略》「債務者が第三債務者鹿倉正一郎に対して請求している亡鹿倉護郎の相続財産に対する遺留分減殺請求権」と記載されている。《中略》

右差押債権目録の記載からみる限り、そこに表示された債権は行使の意思の表示がなされる前の遺留分減殺請求権そのものと解するほかはない。

(二) 右差押債権目録の記載をもって、遺留分減殺請求権行使後に遺留分権利者に帰属した権利の総体たる財産権に対する強制執行と解してみても、現在の強制執行法のもとでは、そのような強制執行は予定されていないと考えられる(そのような総体たる財産を差し押さえても、これを後日個々の目的物ごとに換価するための手続も定められていないし、譲渡命令を発するにも適正な評価自体が困難であろう。)。債権者は、遺留分権利者に帰属した個々の目的物を特定して、これに対する強制執行を求めるべきであると解するほかないというべきところ、前記差押債権目録の記載をもってそのような個々の目的物に対する強制執行の申立と解することも困難である。

(三) 従って、原決定は差し押さえることのできない債権を差し押さえたものであり、さらに、本件記録によれば、原決定のなされた時点で既に湯浅是幸は遺留分減殺請求権を行使しているものと認められるから、行使されたことにより消滅した債権を差し押えたこととなり、いずれにせよ取消を免れない。

3 補正の余地

ところで、将来現実化する可能性のある価額弁償債権や遺留分減殺請求権行使により遺留分権利者に帰属した個々の財産権に対する強制執行の可能なことは既に判示したとおりであり、本件債権差押命令の申立も、債権差押の限度で右遺留分権利者に帰属した個々の財産権に対する申立として補正する余地がある。

(上谷 田村 曽我)

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